メカばか講座 第3時限 「トランスミッション、クラッチ、ジョイント」

トランスミッション
自動車が走行する上で、必要とする駆動力は常に一定と言う訳ではない。このため、エンジンと駆動ホイールの間にトルク(回転力)を調整する装置が必要になり、これをトランスミッションと言う。また、エンジンは普通、逆回転しないので、自動車を後退させる時に回転方向を変えるためにも使用される。
トルクを変化させるのには、「減速比」を使う。減速比は、

減速比=被駆動ギヤ歯数/駆動ギヤの歯数

の式で表される。また、

軸出力=比例定数×軸トルク×回転速度

であるので、エンジン軸出力が一定であるなら回転速度を下げればトルクが増大することがわかる。
トランスミッションは、減速比の大きいものから1速、2速と数える。そして、減速比が1.000のものを一般に「直結」または「トップギヤ」と言っている。ただし、トランスミッション形式により減速比が1.000でないものもある。
減速比が1よりも小さい場合、つまり、エンジン回転より出力軸の回転が速いものは「オーバードライブ」と呼んでいる。
一般のトランスミッションは3から6段の変速のものが多く、減速だけでなくオーバードライブもあることから、減速比とは呼ばず、「変速比(ギヤ比)」と呼んでいる。減速比と呼ぶのはデフ(ファイナルギヤ)くらい。

現在、主流のトランスミッションは大きく分けてマニュアル(手動)とオートマチック(自動変速)だろう。
マニュアルトランスミッション
マニュアルトランスミッションには、選択摺動(スライディングメッシュ)、常時かみ合い(コンスタントメッシュ)、同期かみ合い(シンクロメッシュ)がある。
スライディングメッシュは、メーンシャフトのギヤを軸方向に動かす構造になっていて、使用するギヤを選択して動かす構造になっている。
コンスタントメッシュは、ギヤすべてが常時かみ合っていて、そのかわりにメーンシャフトが分離している。そして、クラッチ(ドグクラッチが多い)で使用するギヤだけを接続する構造になっている。レース用自動車や二輪車でよく使用する。ドグミッションとも言う。
シンクロメッシュは一般のほとんどの自動車に使われているもので、コンスタントメッシュのドグクラッチを同期装置(シンクロメッシュ機構)に置き換えたもの。シンクロには2種類あって、コンスタントロードとイナーシャロックとがある。コンスタントロードは同期が完了する前にギヤが入る場合がありほとんど使用されず、現在シンクロと言えば、ほぼ100パーセント、イナーシャロック式となっている。
イナーシャロックにはさらに、キー式、ピン式、サーボ式があり、キー式は小型車に、ピン式は大型車に多い。サーボ式はドイツのポルシェが開発したものだが、アメリカ市場でトラブルが多く(クラッチ踏まなくてもギヤが入るほどシンクロが強烈なため、使い方によりよく壊れたらしい)現在はほとんど使われない。一時、日産などのミッションによく使用されていた。
ちなみに、このマニュアルトランスミッション、最近はオートマ限定免許の普及などもあり、車種によってはマニュアルミッションが選択できないものも増えてしまった。これはCVTが主流となったことも大きいのだろう。
オートマチックトランスミッション
オートマチックトランスミッションは、現在さまざまなものが流通しているが、かつての主流は通称トルコンと呼ばれる、トルクコンバータと遊星歯車を使用したものだろう。現在でも普通車にはよく使われている。
トルクコンバータは流体継手(フルードカップリング)の一種で、ステータと言う部品によりATフルードの流れを変え、ポンプインペラにぶつけることによりトルク増倍作用を行う。なお、タービンランナの回転速度が高くなると、ステータは抵抗となり効率が低下するので、ワンウェイクラッチにより空転するようになる。このポイントをクラッチポイントと言う。クラッチポイントを超えるとトルク増倍作用が無く、フルードカップリングとして作用する。
トルクコンバータは、それのみでは、2倍から3倍のトルクしか得られず、またバックギヤも必要なため、補助変速機と組み合わせて使用する場合がほとんどとなっている。この補助変速機には遊星歯車が使用されているものが多い。遊星歯車などを操作するのは油圧式のバンドブレーキやクラッチだが、変速ポイントなど細かい制御を電子制御としたものが主流になっている。
また最近はスポーツモードのように、手動操作部を設けた自動変速機も多く、シーケンシャル風に前後にレバーを動かすものや、ハンドルに操作スイッチを付けたものもある。
セミオートマチックトランスミッション
マニュアルモードのオートマチックもセミオートマの一種と言えるが、本来のセミオートマはトルコンからではなく、マニュアルトランスミッションから発展したもの。かつてのいすずナビファイブも考え方からすればセミオートマの仲間と言えるのかもしれない。市販車では事例は少ないが、スポーツ車では今後増える可能性はある。
無段変速機(CVT)
トルコンも無段階変速機の一種だが、現実には補助変速機が付いている場合がほとんどのため、実際には変速段数がある。
CVTは当初ベルト式で、軽自動車など負荷の小さいものから普及したが、このベルト式はその性能の向上(伝達容量の向上)により小型車まで普及するようになった。
特徴としては、構造がシンプルで小型軽量化がしやすいこと、エンジンに対する負荷変動が小さいので低燃費対策に有効であることから、近年小型車でも急激に増えた。マニュアルモードを備えるものもあり、スポーツ性も押し出して来ている。
また、ベルト式だけでなく、動力伝達容量の大きい、ハーフトロイダルCVTも実用化された。円錐の理論と考えれば解りやすいものだが、かつて無理だと言われていたものを実現した技術はすばらしいものだと思う。しかも、動力伝達は金属接触で無く、オイルの分子配列を変えて行うという、画期的なもの。これも、ベアリングメーカーと特殊オイルを開発した石油メーカーと、全体構想・マネージメントを行った自動車メーカーと、三位一体の計画により実現できたのだろう。今後もこのようなプロジェクトものが沢山出て来そうな気がする。現在はそれぞれの分野での技術高度化がすさまじく、1社ですべて開発するのは困難なものが増えて来ていることから、このようなやり方が増えているのだと思う。

次のページ