メカばか講座 第8時限 「ホイールアライメント・ステアリング・旋回性能」

はじめに
ホイールアライメントについて、一般にはフロントのアライメントが重要視されていた。しかし現在ではリヤにも操向装置(ステアリング装置)を備える4WSや、荷重に応じてアライメントが変化する特性を持ったもの、あるいは駆動力を前後左右で可変させて旋回させる特性を持ったシステムの出現など、旋回性能をフロントアライメントだけで語る時代は去ったのだと思う。とは言いながら、トータルな話で旋回性能の基本を語ろうとすると何から話して良いものか見当がつかない。ここでは詳細な説明は避け、最低限の事をお話することにします。

ホイールアライメント
キャンバ
キャンバとは、ホイールを前から見て、ホイールの中心線と路面に対する垂直の線とで形成される角度、つまり、ホイールが倒れている角度のことを指す。キャンバ角がある理由は、オフセットを少なくしてハンドル操作力を低減するとか、荷重のかかる位置をナックルスピンドルの根元方向にしてスピンドルの損傷(曲がり)を防ぐなどで、キングピン傾斜角とともにハンドル操作上重要な役割を持つ。
鬼キャンとか言っているのはネガティブキャンバを過大に付けたもの。直進性が悪くなるので、強引にトーインを付けてサイドスリップを通すという荒技を使う場合が多い。

キングピン傾斜角
キングピンとは、車軸式のアクスルとステアリングナックルを連結する軸のことで、この軸があるからタイヤが向きを変えることができる。車軸式でなくキングピンが無い場合は、ナックルの上と下に(下だけの場合もあるが)付いているボールジョイントの中心線がキングピン傾斜角に相当する。キングピン傾斜角はキャンバと同じくハンドル操作を容易にしたり、オフセット・スクラブ半径が小さくできることにより、加減速やブレーキの片効きによるナックルの回転モーメントを少なくすることが出来る。また、ハンドルを切るとキングピン傾斜角により車体は持ち上げられるが、自動車の重量によりホイールを直進状態に戻そうとする力が発生する(復元力)。ハンドルを切って旋回した後ハンドルが直進状態に戻ろうとするのはこのため。

キャスタ
フロントホイールを横から見ると、キングピンは傾いているが、この傾きをキャスタと言う。自転車や自動二輪車で言うフォークの傾きと言えば判りやすい。キャスタにはプラスとマイナスがあり、二輪車のように上が後ろに傾いているのをプラス、この逆をマイナスと言う。自動車も普通はプラスキャスタが多い。また、キャスタの延長線が路面と交差する点をキャスタ点と言い、ここからホイール中心からの垂線までの距離をトレールと言う。
タイヤの接地点ではタイヤの転がり抵抗により後ろ向きの力が働いているが、キャスタがプラスだとキャスタ点が前になり、常にホイールを進行方向に保とうとする(キャスタ効果)。つまり、操縦安定性が高まるということになる。

トーイン
自動車を上から見た時のホイールは、普通は前の方が後ろより狭くセットされている。これをトーインと言い、寸法の差で表現する。前が開いているのはトーアウトと言う。トーインがなぜ付けてあるかと言うと、操行抵抗により前側が開くのを補正するために付けるのだが、昔はキャンバ角がプラス方向に付けられたものが多く(つまり外側に倒れていること)、この状態だとタイヤは円錐のように外側に向かって転がろうとする。これを打ち消す為にも付けられた。しかし現在はサスペンション・アクスルの進化により、トーの数値も少なくなっている。
ただし、車検を通すため、サイドスリップを調整するためには今でもこれに頼っている場合が多い。

注)サイドスリップとは自動車が1km進む時ホイールが何m横に移動するかを表した数字。保安基準では1kmあたり5mが限度とされている。

スラスト角
自動車の進行する線に対し、自動車がどれだけ斜めになっているかという角度。大きいと高速安定性が低下する。

ステアリング
ステアリング装置というと、ハンドル(ステアリングホイール)くらいしか思いつかないと思うが、実はすごく重要な装置であるということを忘れてはいけない。ステアリング装置は重要保安部品になっていることからもわかるように、「安全性」を最重点課題として設計されている。だから、むやみにハンドル径を小さくするとか、ボスを交換するということは、簡単に考えてはいけない。ステアリング装置に不備がありガタなどがあると、操縦安定性がなくなったりして非常に危険。
ステアリングホイールは、最近のものは衝突時に運転者が胸を強打しないよう、パッドが取り付けられているものがほとんど。エアバッグが組み込まれているのも多い。

ステアリングシャフトは、乗用車用では100パーセントと言ってよいほど、衝撃吸収式が採用されている。タイプは、コラムの変形によってエネルギーを吸収するタイプ(メッシュタイプやボールタイプ)とメーンシャフトの変形によってエネルギーを吸収するタイプ(ベローズ型)がある。
また、シャフト自体の安全対策でなく、特にワンボックス車のようにクラッシャブルゾーンが少なく、衝突時の生存空間が少ない車両に対して、衝突時引き込み式のステアリング装置というものがある。これは衝突時にシャフトが運転者から遠ざかる方向に移動するというシステムで、すべてのワンボックス車にぜひ導入してもらいたいシステムだと思う。

ステアリングギヤには、ウォーム・セクタ型、ウォーム・セクタ・ローラ型、ボール・ナット(リサーキュレイティング・ボール)型、ラック・ピニオン型があるが、現在の乗用車ではほとんどボール・ナットとラック・ピニオンとなり、特に小型車はラック・ピニオンばかり。これもFFなどが増え、エンジンルームレイアウトに余裕がなくなって来ているためかも知れない。また、キャブオーバーの大型車などでは運転席の後方にアクスルがある場合も多く、レイアウト上ドラッグリンを設けている。なお、独立懸架の車両は、タイロッドも分割されており、中間にリレーロッドを持つ場合が多い。ラック・ピニオン型はラックの両端にタイロッドが付いているのでリレーロッド、ピットマンアームアイドラアームは当然存在しない。

パワーステアリングは、最近では軽自動車でも標準になるほど一般化したが、これにもいろいろなタイプがある。ただし、大型車などを除くと、乗用車ではほとんどがインテグラルタイプで、リンケージの中間にパワーシリンダの付くリンケージ型は普通の人は見たことがないのがほとんどだろう。もっとも最近はギヤボックスがラック・ピニオンばかりということもある。なお、昔のパワーステアリングフルードはATフルードと一緒だったが、パワステの能力にオイルが付いてこれず、最近はほとんどが専用オイルとなっている。また、ラリーやダートラなど、競技車にもパワステがあたりまえの時代となり、パワステに対する負荷は増えるばかりで、競技車用のパワステ(特にポンプやオイルクーラーなどの強化品)が組み込まれる場合も多い。

旋回性能
旋回性能の話しをする前に基本的な事の説明をするが、ハンドルを切った時、通常の車であれば右と左のタイヤ切れ角は同じではない。旋回というのは、通常ある1点を中心として行うものだが、あいにく自動車には幅がある。つまり、同じハンドル切れ角とすると、旋回中心が1点に収束しない。1点に収束しないとなると、どちらかの車輪が滑ってつじつまを合わせているということになる。ここで左右の切れ角が同じステアリング装置をパラレル・ステアリングと言い、1点に収束するように内側の切れ角を大きくとったものをアッカーマン・ジャントステアリングと言い、この4輪ともに1点を中心として旋回するという理論をアッカーマン・ジャントの原理と言う。
ただし、この理論は車速がゼロに近い時の話しで、実際にはスピードが上がるに従い自動車には遠心力が働く。ここで、きちんと曲がるためには、遠心力と同等の求心力が必要となる。(求心力がないとどっかへすっ飛んでしまう)この求心力を得るのがタイヤの横滑りというもの。なお、横滑りとはタイヤの回転面と進行方向が一致しない時発生する。
例えば、ハンドルを右に切った状態で、遠心力がかかると、タイヤは外側に押されるが、タイヤは路面との摩擦で動かないから、トレッド面は変形する。このトレッド面の変形が戻ろうとする時の、タイヤの方向に直角な力をサイドフォースと言う。このうち、進行方向に対し直角方向の成分をコーナリングフォース(横抗力)と言う。このコーナリングフォースと遠心力が釣り合った状態で、タイヤは円弧を描いて旋回することができる。
この、横滑りが生じている状態の時、進行方向とタイヤの方向が成す角度をスリップアングルと言う。また、コーナリングフォースの作用点はタイヤの接地面中心より後方に発生しているため、タイヤを進行方向に引き戻そうとする力が働く。これをセルフ・アライニング・トルクと言う。


オーバーステアとアンダーステア
普通は、オーバーステアのことを「ハンドルを切った角度よりさらに曲がる性質」と思われているが、この表現は100点ではない。正解は、「速度が増すにつれて必要とするハンドル切れ角が減少する性質」というのが正しい解釈とされている。アンダーステアはこの逆というわけ。つまり、「速度とスリップアングルと旋回半径」が理解できて正解ということだろう。オーバーステアだと「速度が増すにつれて旋回半径が小さくなる性質」「リヤホイールのスリップアングルがフロントホイールのスリップアングルより大きい」という言い方にもなる。この特性を調べるのによく使われるのが定常円旋回で、一定半径の円を描く低速度の状態から加速していくとこの性質が現れる。これを数値化・グラフ化して判りやすくする。

アンダーステアの車は方向安定性が良く、オーバーステアの車は方向安定性が悪いと一般的に言われている。これはワンダリング(後で説明)や横風、サス形式にまで関係があるが、例えば左から横方向の外力を受けた場合、直進状態を保つにはわずかに左へハンドルを切る状態となる。するとオーバーステアの場合は直進方向より左へ旋回しようとする。この時の遠心力は横からの外力と同じ方向(この場合左から右)に働く。この傾向は高速になるほど強く現れるので、直進しているつもりがテールが右に流れるという状態となる。アンダーステアの場合は旋回による遠心力は外力と逆(右から左)に働き、ハンドルが左に切れているにも関わらずテールは左へ流れるということとなる。つまり外力を打ち消す方向に作用するため、方向安定性が良いということになる。
また横風に対しては、流線型に近い車ほど風圧を受ける中心は前方に移動する。そのような場合、横風を受けると風の吹いてきた方向に車が向きやすい。この場合にもアンダーステアであれば直進性が確保しやすい。

このような理由から、一般の市販車は弱アンダーステアの車が多いのだと言われている。ただし、絶対にアンダーステアがいいのかというと、一概には言い切れない。直進性が良いということは、裏返せばステアリングが鈍重と言われかねない。逆にクイックで軽快な走行性が求められる場合には弱いオーバーステアが良いのだろう。

サスペンション他との関連
ローリング(横揺れ)
ローリングは4つの固有振動のひとつで、最も有名なものだろう。「ローリング族」という言葉もあるように、走り屋さんの会話にはよく出てくる。しかし、ローリング(ロール)の解釈を勘違いしている人も多い。
ローリングはX軸まわりの回転運動を行う固有振動で、前後方向から見ると解りやすい。ここで、ローリングの発生する中心をロールセンターと言う。ロールセンターはサスペンションの形式によって位置が違い、ロールセンターと重心の位置が離れ、ロールセンター位置が低いとローリングが強く発生しやすい。ローリングを抑える方法には、サスペンションスプリングを固くしたり、アンチロールバー(スタビライザ)を取り付けて回転を起こさせないというような手法がとられる。
前後のロールセンターを結ぶ線をロール軸(ローリング・アキシス)と言い、この軸を中心としてローリングは発生するが、この設定によってもステアリング特性に与える影響は大きい。
ヨーイング(かた揺れ)
Z軸まわりの回転運動を行う固有振動で、これをローリングと勘違いしている人も多い。俗に「テールが出る」というのがこれのこと。ステアリング特性にも関連が高い。この運動を制御するのは難しく、さまざまな方法がトライされている。ホイールアライメントを制御するものや4WSもそうだし、最近のハイテクではAYC(アクティブ・ヨーコントロール:左右駆動力移動システム)もある。トラクションデバイス(ノンスリなど)もその一環と言えるのかもしれない。
バウンシング(上下振動)
バウンシングはZ軸方向の平行運動を行う固有振動で、特に走行性能よりは乗り心地と言う面で影響が大きい。
ピッチング(縦揺れ)
ピッチングはY軸まわりの回転運動を行う固有振動で、テールホップなどもこれだろう。バウンシングとも関連が高い。


アクスル・ステア
リーフスプリング車軸式のサスペンションで、ローリングした場合を考えると、リーフスプリングに付いているシャックルとスプリング変形のため、車軸には前後方向に移動する現象が発生する。つまりロールした状態では車軸は旋回外側を向くということになり、リヤアクスルの場合にはオーバーステアとなる。疑似4WSとも言っている。フロントの場合は、ホイールの舵取り角が変化する。コイルスプリング車でもマルチリンクビーム式サスペンションなどはアクスルステアを発生させるものと言える。
独立式サスのステアリング効果
独立式サスの場合はローリングによりキャンバ変化が発生し、ステアリング特性に影響を与える。スイングアクスルをリヤに採用するものではアンダーステア傾向に、トレーリングアームをリヤに採用するものはオーバーステア傾向となる。
ワンダリング現象
ワンダリングは、ふらつき特性とも言える現象で、よく言われるものにはわだちへの追従性(ハンドルを取られやすい)とか、ブレーキステア(ブレーキ時に振られる)あるいはトルクステア(加速してアクセル離した時、左右でトラクション変化が発生し振られる)などもこの関係かと思われる。タイヤの特性にも関連があるなど、原因はさまざまでいろいろな要素が組み合わさって発生する。近年よく取り上げられるようになった。これも高速化が進んだことも影響しているのかもしれない。