メカばか講座 第1時限 「デフについて」

デフ=ディファレンシャル=差動装置
一般に「デフ」と言うが、これは「ディファレンシャル」の略語のことです。日本語では「差動機」「差動装置」と言われ
ている。最近は普通のデフのことは特に「オープンデフ」と言うらしい。

自動車は、直進状態ばかりなら良いが、カーブや交差点などでは曲がらないといけない。
ところが、都合の悪いことに、車には「幅」がある。前後方向だけでなく、左右方向にもタイヤがある。つまり、この状
態で曲がろうとすると、タイヤの軌跡の長さには違いが発生する。
仮に左右直結のタイヤがあったとする。すると外側と内側の軌跡の長さの差の分だけ、内側のタイヤは空転しないと
曲がることが出来ない。
そこで、この差を発生させるのが「差動装置=デフ」というわけです。
実際の動作は、A、BのラックとCピニオンで考えると判りよい。図−1のA、Bにかかる負荷が同じであれば、Cピニオ
ンを持ち上げれば、A、Bのラックが両方持ち上がるとしよう。つまり持ち上がった高さ分が移動距離であり、ラックが
円周状をしていると考え、それがタイヤの動きと同じと考えればもっと判りやすいだろう。
それで、この状態が車で言うと直進状態。ABともに同じ移動距離だから右にも左にも行かずに真っ直ぐ走れる。

ここで、A、Bにかかる負荷が差のある場合はどうなるか。イメージとしてはAのラック(タイヤ)を固定したとする。する
と負荷の軽いBピニオンは持ち上がり、Cピニオンは回転するということが判るだろう。hの分だけ差が発生したわけだ。
つまりhの距離だけBが前に出るということになり、車体は左に曲がる。
デフの構成部品にこの図を当てはめると、A、Bのラックが左右のドライブシャフトに連結しているサイドギアで、Cが
デフピニオン、CをD方向に回転させるものがデフケースに相当し、デフケースの元を辿ればリングギア−ドライブピ
ニオン−プロペラシャフト−トランスミッション−クラッチ−エンジンとつながっている。(注:FRのMTの場合)

 図−1

ところで、差動装置が仇になる場面がある。例えばスタックして片輪がスリップした状態。
この時は、接地しているタイヤの回転が0、浮いているタイヤが100という様になってしまい、脱出が不可能となる。
ここで登場するのが、デフロック等の「差動制限装置」というわけだ。

デフロック
デフロックは、読んで字のごとし、デフの作動を固定してしまうデバイスで、機械的に左右のドライブシャフトを固定し
たりする。当然デフが無い状態と同じになる。ロックにはシンクロが付いているものもある。(センターデフ用はほとん
どそう)ワイヤー・レバー式だけでなく、電気式のものやエア、油圧式のものもある。

ノンスリとLSD
ノンスリと呼ばれる「ノンスリップデフ」とLSDと言われる「リミテッドスリップデフ」は全く同じものではない。最近は同
じものだと思っている人も多いが、元々は目的が違っていた。ノンスリは中型までの主にトラックに使用され、ぬかる
みからの脱出目的に使われていた。対してLSDは乗用車やスポーツカーに使用され、高速でのコーナリングを改善
する目的で主に使われていた。構造はLSDの方が簡単で、これが壊れにくくて好まれたのだろう。ただし、LSDはレ
ーシングカーなどを除けば、殆ど見られなくなり、今では一般に機械式LSDと言うと「ノンスリ」のことと扱われている。

ノンスリの構造は、デフケースの中にもう一つ湿式多板クラッチがあるようなものだ。

 ノンスリのイメージ図

左右のシャフトに回転差が発生すると、デフケースのテーパー面にピニオンシャフトが乗り上げ、プレッシャリングを押
す。すると多板クラッチによって反対側のホイールに駆動力が追加される。
LSDの場合は、ピニオンシャフトとデフケースのテーパー面の代わりにクラッチメンバというものがあり、これによりクラ
ッチの圧着力を発生させている。



ところで、ノンスリやLSDには「イニシャルトルク」というものがある。これはあらかじめクラッチに作用させておく圧着力
だが、これが大きいと、街乗りではつらいということになる。(極端な話、ほとんど直結で曲がりにくいとかバキバキと音
を立てる、タイヤが常に滑っている状態)

ノンスリとLSDはイニシャルトルクの出し方が違っていて、ノンスリがコーンプレート(皿スプリング)でピニオン側に押す
のに対し、LSDはクラッチメンバにコンプレッションスプリングが付いていて、サイドギヤ側に押し付けている。なお、ノ
ンスリでも、クスコで言う「RS」タイプのように、ノンスリでありながらコンプレッションスプリング方式のものがある。コン
プレッションスプリングタイプの方が、差動制限の働く方向と同じになるので、レスポンスが良いとされている。ノンスリ
とLSDの中間とも言えるだろうか。

また、機械式のノンスリは最近は通常の2ウェイ(トラクション側、反トラクション側で同じ差動制限力を出すもの)だけで
なく「1ウェイ(反トラクション:アクセルオフ時に差動制限しないもの)」、「1.5ウェイ(アクセルオフ時の差動制限力をト
ラクション側に比較して弱いながらも出すもの)」や角度を変えて差動タイミングを可変にしたものなど、種類もいろいろ
ある。これもアクセルのオンオフでの挙動を扱いやすいものにするための方策で、自分のドライビングと目的によって選
択したりセッティングするのが普通となっている。

トルク感応型LSD
トルセンなど、クラッチを使用しないLSDがある。では何で差動制限の力を発生させるかというと、「ギヤの摩擦の力」
を利用しているんですね。
一般にギヤというのは、普通のスパーギヤ(平ギヤ)のように、駆動側、被駆動側を逆にしても回せるが、例えばウォーム
ギヤの様に、摩擦が大きく逆からは回りにくいギヤというのもある。このように、ギヤの摩擦力を利用する方向に配置し、
差動制限を行っている。
特徴はトルク分配特性がギヤの伝達力と比例し直線的でスムーズであり、路面状況に対する追従性が高いこと、それ
ゆえ挙動変化が穏やかでABSやトラクションコントロールとの相性が良いことなどが挙げられている。
タイプとしては、エレメントギヤを使うもの(トルセンでいうAタイプ)と、プラネットギヤ方式のもの(トルセンでいうBタイプ)
がある。効きはAタイプの方がシャープで、スポーツ性が高いとされている。
ランチアデルタにはトルセンのAタイプが採用されている。

注:ギヤの形状について
ギアの形状はスパーギヤと言ってギヤの歯が軸と平行に切ってあるものがまず挙げられる。ところが負荷を大きくして
行った場合、ギヤが欠けてしまったりする。この対策として歯当たり面を長くすれば伝達力が大きく出来るということで、
歯を斜めに切ったヘリカルギヤが現在は多く使用されている。ヘリカルギヤの採用により問題となったのはベアリング形
状で、スパーギヤの場合だと普通のボールベアリングで良かったものが、スラスト方向(軸方向)の対策もしなければな
らなくなり、アンギュラーコンタクト型ボールベアリング(玉受けを斜めに配置したもの)やテーパーローラーベアリングを
採用しなければならなくなった。
ヘリカルギヤ(斜(はす)歯歯車)になっても駆動軸と被駆動軸は平行で、回転方向を変えることは出来ない。このためデ
フではプロペラシャフトの回転軸とドライブシャフトの回転軸を直角に曲げる必要があった。ここで採用されているのがベ
ベルギヤ(傘歯歯車)で、ベベルギヤのヘリカルギヤ型と言っても良いのがスパイラルベベルギヤである。ただし現在の
乗用車ではまずスパイラルベベルギヤは使われない。なぜかと言うと、スパイラルベベルギヤでは駆動軸と被駆動軸の
芯は同じ高さで、これでは室内の床高を高くしなければならず、室内容積も少なくなってしまうからだ。このため駆動軸つ
まりプロペラシャフトの軸芯をドライブシャフトの軸芯より低くするための特殊ギヤが採用されている。これがハイポイド
ギヤである。ハイポイドギヤはスパイラルベベルギヤよりさらに歯当たりのねじれがきつく、ギヤの歯かじりが激しい。
このため極圧添加剤を配合したハイポイドギヤオイルを使用しなければならない。
また、このギヤは終減速比を持っていて、ギヤにかかるトルクも非常に大きい。このためバックラッシュなどがあると衝撃
で歯車が破損する恐れもある。このためギヤにはプリロードをかけるという調整が必要となる。デフの中でもこの歯当たり
調整というのが最もレベルの高い技術を必要とする部分でもある。
エレメントギヤはベベルギヤのように回転軸の方向を変更することができる。弱点としては噛み代が少なくて、大トルクの
伝達には耐えられない。このためトルセンのAタイプでは2組のギヤを使っている。
プラネットギヤ(遊星歯車)は入力点と出力点が1対1でなく複数存在している。このため1組のギヤで変速比を変更する
ことも可能なギヤである。オートマチックトランスミッションによく使用されているが、横置きエンジン車のファイナルギヤに
使われる場合もある。ランチアデルタもこの方式。

ノースピンデフ
今や、ノースピンデフを知っている人も少ないが、大型車や建設機械ではよく見かけたものだ。ノースピンデフの作動の
理屈はノンスリと似ているが、構造は全然違う。形状から判断すると、このデフは左右直結状態が標準で、差動が必要
な時だけ開放するという、デフロックと逆の発想で設計されたのだと思う。ドグクラッチであることからも、ヘビーデューティ
なデフだと言える。実はクロカン4駆にはこいつが一番良いのかもしれない。
差動制限装置と言うより、「必要な時だけ作動する差動装置」と言った方がいいのかも知れない。
旋回して作動する時、「カチカチカチ」と音がする。壊れているわけではない。片輪だけ跳ねた時も空転しなくて、再接地
の際の衝撃が少ないとされている。

ビスカスLSD
実は、ビスカスLSDは今までに挙げた「機械式」とは違い、「ビスカス式」なんです。機械式LSDと根本的に違うところ、
それは、このタイプは「オープンデフ」から進化したというイメージで、空転して一定以上の回転となった時、デフにくっつ
いているビスカスカップリングのシリコンオイル剪断抵抗によりデフの動作を制御しデフケースとサイドギヤを固定する方
向に導くというもの。
ビスカスカップリングとオープンデフがパラレルで動いていると思えばわかり良い。
ちなみに、「強化ビスカスカップリング」もあるが、セッティングの幅が狭いというか、機械式で言うイニシャルを変えようと
すると、ビスカスカップリングを複数種類用意して交換しなければならず、セッティング時間や費用が嵩むことから、モー
タースポーツの世界ではあまり使用されない。
センターデフに採用されたのが日産で言う「ATESSA」で、今やビスカス式のセンターデフと言えば大体はこのタイプ。
ランチアデルタもこの方式。
ちなみにセンターデフを持たず、ビスカスだけのものもあり、特に負荷の小さい軽自動車や小型車によく使われた。しか
しビスカスカップリングユニットのトラブルも多かったらしい。