ContaxとZeissT*のこと

第49話  比類なきAX

コンタックスのMFレンズはマニュアルフォーカスだからMFレンズというのは誰でも知っている。
しかし1986年に京セラブランドで発売された230AFをはじめとするカメラは、なんとツアイスのMFレンズがAFで使えるという、とてつもない機能が備わっていた。
この意味を当時はよく判っていなかったらしい。もしよく判っている人がいたならば、もっとこのカメラは売れていたかもしれないのだ。
なぜならば、このカメラにマウントアダプターを取り付ければ、ニコンの古いレンズやM42レンズ群なども簡単にAF化されてしまうのだ。
しかもこのAF方式では、AFと同時にMFが使えるという特徴があった。他社のカメラ同様切替スイッチがあるのだが、京セラのシステムでツアイスMFレンズを使用した場合、MFレンズのヘリコイドとAFユニットは分離されているので、同時利用が可能だったのだ。Nシステムのデュアルフォーカシングシステムが既に採用されていたようなものだ。
そしてそれから10年後、コンタックスAXというさらにとてつもないカメラが出現した。京セラAF機の逆転の発想で製作された、バックフォーカシングシステムの採用がなされたこのカメラは、他社に衝撃を与えたに違いない。
MFレンズのみならず装着可能な他社レンズがそのままの焦点距離でAFに、また普通のレンズがマクロレンズになってしまうという不思議。当然デュアルフォーカシングの考えは踏襲されている。今風の言い方をすれば、「ハイブリッドMF」カメラだったのだと言ってよいだろう。
しかしあまりにも奇抜な構造は、他社が模倣も出来ないくらいだった。だから他社は手ぶれ防止や予測AFや視線入力など違う方向性で優位に立とうとしたのではないだろうか。
コンタックスはもとより報道やスポーツ写真のような「弾幕を張る」撮り方をするカメラではなかった。昔風の撮り方が合うカメラなのだろう。
AFはあくまで補助。Nシステムになっても、230AFやAXの思想は確実に引き継がれている。


世界で唯一市販された35mmABFシステム採用機のAX