ContaxとZeissT*のこと

第3話  手術台のツアイス
実は学校を出て就職したものの、「自分の道は自分で決めたい」と密かに
思っていた。
そして、紹介してくれた人の顔を立て、「3年は勤めます」と言って過ぎた頃
独学で自動車整備の専門学校を受験し、合格した。
こうして、一人での生活が始まった。
学校は面白い奴がいっぱい居て、楽しい学生生活だった。しかし、そんな頃
不幸な事故に巻き込まれた。
体育の時間は柔道だったが、乱取りの時、誤って相手の膝が僕の目に入っ
てしまったのだった。ばんばんに腫れたまま土日を過ごしたものの、「お岩さ
ん」の様になってしまった。
寮のおばさんに相談し、眼科にかかることにした。
やり手だと評判の医師は、ぼくの目を見るなり、「ちょっと切ってみましょうか」
と言った。心の準備もないまま、手術台に手足を縛りつけられた。
マスクを付けた医師が顕微鏡と無影灯を僕の顔の上に持ってきて、いろいろ
調べ始めた。
その時気が付いた。この顕微鏡「ZEISS」のマークがあるではないか。
ツアイスが総合光学器具メーカーであることは知っていた。
しかし、病院でZEISSを使う医師は初めて見たのだった。
1回目の手術はただ切って水を抜いただけ。数日後、もう一回切るという。
痛いのはいやだが、このままでいるのもいやなので、手術することにした。
2回目の手術の時、改めてまわりを見ると、ほとんどが「ZEISS」で統一され
ている。ツァイスの手術台というのもめったに上がることないよなあ、と思いな
がらいると「動くと跡が残るよ」というドスの利いた医師の言葉。おとなしくして
いると、あっという間もなく2センチほど切ったらしい。
縫い方も上手で、さすが腕がいいと言われるだけあるなあ、やっぱりZEISS
使う人は違うなあ、と思ってしまった。
術後の経過は完璧に近く、切った跡も縫った跡も全くわからないくらい。
確かに名医の先生だった。

血管腫というのが、その時の病名。悪性ではないが、念のため培養試験まで
やり、異常なしを確認してから全快となったのだった。