ContaxとZeissT*のこと

第10話  ドイツ玉の魔力

長い間、プラナー50mmをドイツ玉と信じて使っていたことは書いた。しかし、そうでないと知り、ドイツ玉の表現力がどうのこうのと聞くと、試しにドイツ玉を使ってみたいと思うのは、コンタックス使いであれば誰でも考えるだろう。
しかし、現実にドイツ玉を買うことが出来た人というのは幸せな人だ。なんといっても、そのお値段は、他社の日本製レンズに比べ、びっくりするほど高く、おいそれと手の出せるものではなかったからだ。
僕自身、2本目、3本目のレンズを買うにあたり、「ニッパチゴーゴー」で決めてはいたものの、その頃少なくなりつつあるドイツ玉を見ながら、ため息をついたのを覚えている。
しかし、Jであるディスタゴン28mmと、ゾナー135mmは皮肉にもドイツ玉の性格が強いと言われるものであった。ドイツ玉よりドイツらしい日本製。変な話しである。
しかし、これは例えば、BMWのZ3がアメリカ製にもかかわらず、そのテイストはドイツ車である、という話しと同質のものだろう。つまり、モノづくりにおいて重要なのは、設計思想と、製造技術であって、そこに変わりがなければ製造国によって差が生じることはない、というツァイスの言い分を裏付けるものだ。
日本製になっても品質が変わらないというのは、ある意味すごいことだと思う。
いまや、MTFによる評価などが当たり前だとは言え、品質を同一に仕上げるというものは一朝一夕にできるものではない。
話は戻って、ドイツ玉。初代RTSを新品で購入し使い続けて20年。久しぶりに山へ登り、写真をまたやりたくなった。
ここで再びレンズを買いたいという衝動が高まった。しかも、今度はドイツ玉が欲しいと思うようになっていた。
なぜドイツ玉か。それは例のプラナーの話にも戻るが、人が言うほどドイツ玉というのがいいものなのか、単純に試してみたくなったのだ。
ドイツ玉を買うにあたり、現行商品で新品が流通しているのは広角系の3本と、ゾナーの85mmしか無いことが分かった。後は中古か金融新品、在庫品しかない。
そこでまず、中古市場の流通状況を見ることにした。
ドイツ玉はやっぱり高い。新品時より高値で取引されているものもある。この高値は異常と言っていいくらいだ。
出張でたまたま東京へ行き、新宿あたりでも見てみるが、プラナー85mmなど、85000円もしている。新品時は79000円だったのに。
さすがに東京はタマ数も多く、200mmや100mmもあるがやっぱり高い。結局その時は買わなかった。
しかし、ドイツ玉を買いたいという気持ちは納まらず、用事で名古屋へ行った時に寄ったカメラ屋で、ディスタゴン25mmを見つけた。これを逃すといつ買えるか分からないと思うと、つい買ってしまった。
買い損ねて後悔するより、まず買おうとの気持ちが働いていた。
さらに、この後ゾナーの新品を見に行ったのだが、聞くと在庫がないと言う。次のロットはドイツだという保証がないとも言う。これを聞き、違う店でゾナー85mmを発見するや、無理してこれも買ってしまった。
「無くなる」と聞くと弱い。この殺し文句がドイツ玉の高値に繋がる魔のささやきなのだろう。
この頃、特にMFレンズ自体が無くなるのではないかという噂を聞くにつけ、「今のうちに」という気持ちが疼いている。