ContaxとZeissT*のこと

第1話 ツァイスとの出会い
元々学生の頃、写真部に所属していたこともあり、カメラに対する知識は普通の
人よりはあったのだと思うが、当時の僕はキャノンのFTbに50mmと300mm望
遠を付けて写真を撮っていた。
学生というのは「望遠レンズ」に憧れるものらしい。大多数の者が広角より望遠を
まず買っていた。
O先輩は部長であったが、カメラは「ペトリ」と「ニコマート」を使用していた。その後
輩で次期部長であるM先輩(2年生)は「ニコンF2フォトミック」を使っていた。
ニコンF2と言えば、押すに押されぬ「プロ用機」である。
先輩を差し置いてF2とは、O先輩も面白くなかったのだろう。もともとはペトリを使
用していたのをニコマートに買い換えたというのも「同じレンズで勝負してやる」と
いう闘志がむき出しのように思えた。
カメラはレンズさえ良けれゃなんとかなる。ということを教えられたような気がする。
そのM先輩も部長を引退し、僕らの世代となった。同級生の部長が使用するカメラ
は「オリンパスOM−1」だった。当時、システムカメラとしてかなり売れていた。
しかし、その彼は突如として退学してしまった。
そこで、僕に部長のお鉢が廻ってきた。しかたなく引き受けたものの、乗り気はし
なかった。
なぜならば、僕は撮影に関しては得意でなく、あまりいい作品を撮っていなかった
からだ。構図や光の捉え方に悩んでいた。
暗室作業の方が僕は得意だった。O先輩にみっちり暗室作業を仕込まれた。
いい作品ができないのをカメラのせいにしたくはなかったが、つい愚痴が出るのも
事実。そこへもってきて、構図とかプリント技術で劣る他の部員などが「ニコンF2
フォトミックA」など使っているのを見ると、腹立たしかった。O先輩の気持ちが判っ
た。

こんなようにして、悶々とした学生生活が一旦終わった。
就職して、自分の思い通りに出来るお金が出来ると、積年のうっぷんを晴らすかの
ように、さまざまなものに投資した。それがオーディオであり、自転車であり、カメラ
だった。
この時カメラを買うにあたり、僕はまよっていた。お金ができたといっても十分にある
わけではない。
検討したのは「ニコンF」の中古だった。しかし、ニコンFは高かった。F2などなおさら
で、フォトミックなど買えなかった。
そこで僕は考えた。ニコンで対抗するのはやめよう。
じゃあ、キャノンか。しかしF−1も高い。
そこで思いついたのが、「コンタックスRTS」だった。定価では高いが、実売価格は
ニコンより安かった。それと、生来の天の邪鬼気質がニコンを買うことを拒否していた。
「レンズさえ良ければなんとかなる」という話しも思い出していた。
コンタックスは「写真はレンズで決まる」と明快に打ち出していた。
ボディはニコンの方が高いが、レンズはコンタックスが高かった。その高価なレンズ
に賭けることにした。
皆に「なんでそんな変なカメラ買ったんだ」とさんざん言われた。

しかし、「写真はレンズで決まる」というフレーズは気に入っていた。

こうして僕は「ツァイスユーザー」となったのだった。