ムーミンについて

追悼
トーベ・ヤンソンさんが2001年6月27日に亡くなった。86才だった。
最近あまり表舞台に出てみえなかったので元気かなあと思っていたが、まさか亡くなってしまったとは・・
しかし、新聞の訃報欄では「愉快なムーミン一家の心温まる物語を書いた作者」というようなイメージでまとめられており、確かに一面では正しいのだが、新聞ならもっと深い追求をしても良かったのではないかと感じた。
ヤンソンさんはスゥェーデン系フィンランド人である。フィンランドという国はロシアに侵略され、当時日露戦争で日本が勝利したことがきっかけで開放されたという話がある。そのため、フィンランドの人は日本に親しみを持っていたらしい。しかし、第二次大戦ではフィンランドはドイツの侵略を受ける。ヤンソンさんはその抗独記事を載せていた雑誌、「GALM」の表紙を描いていた。日本はドイツと同盟国だった。直接にはドイツが敵だったとはいえ、フィンランドの国民感情としては複雑なものがあっただろう。
アニメーションで特に日本での人気は高かったが、それは原作とはかけはなれたものであり、ヤンソンさんは日本のアニメ会社にクレームを付けたりもしている。最終的に和解はしたが、本人としては納得行くものではなかったのではないかと思う。
それだけに、この欄でも紹介したビデオ(スウェーデン製)はヤンソンさん自身がスウェーデン語で語るという力の入ったビデオであり、一般に流通しているものでは唯一ヤンソンさんの肉声が聞けるという貴重なものとなってしまった。
ヤンソンさんの声は力強い。ただ穏やかなイメージではない。どちらかといえば強く叱責するような語り口である。
ヤンソンさんは、その表情からは伺えないほど、強く、たくましく、反骨精神を持った人だったのではないかと思う。また、日本という国に対して複雑な感情を持っていたであろうことは、先の話からも容易に想像できる。日本人でヤンソンさんに会った人は非常に少ないという事実もそれを証明しているのではないだろうか。
また1970年代以降、ムーミンシリーズの中で最後の作品、「ムーミン谷の11月」には、ムーミン一家は全く登場しない。主人公が登場しない物語という、非常に珍しい手法で描かれた作品に、僕は非常に興味を持った。確かに型破りな人である。
ムーミンシリーズが完成した後は「少女ソフィアの夏」や「彫刻家の娘」などの自伝的小説を書いた。この2冊を読むとなんとなくヤンソンさんがムーミンで何を語りたかったのかが、少しは理解できるような気がする。
このように、ムーミンそしてトーベヤンソンという人は実は奥深い人だったのだと思う。
そして、ヤンソンさんの書いた物語の謎を解くために、これからも読み継がれていくのだろう。 (2001.6.29)

なぜムーミン?
なぜ、ムーミンか。この理由はというと、ムーミン物語の中には実は共感できる人がたくさんいるからです。物語として見たとき、これほどまでに幅広いジャンルを網羅したものは他にないと思うんですよ。

ムーミンは知っている人も多いかと思いますが、フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの書いた(描いた)、長編、短編とりまぜたお話です。テレビアニメーションとして、昔の虫プロ、東京ムービーなどのものが有名ですが、僕が思うにあれはやはり「イブニングニュース系」作品であって、(タイトルバックでムーミンのおしりのシーンなどまさにそのもの)その後放映された、「たのしいムーミン一家」でも画面は明るく一般向けに構成されており、本編に近いアニメーション作品というのは、スゥェーデンで制作された「それからどうなるの」や「さびしがりやのクニット」だと思うんです。この2作品は、全体においておどろおどろしく、画面は暗く、寂しい雰囲気があり、ストーリーは難解で、原作に忠実なのが特徴です。
一見「怖い」作品なのですが、なぜか我が家の子供達は好んで何回も見ています。

実際の物語では、ムーミンパパは「葛藤するボヘミアン」として描かれているし、ムーミンママは「自我に目覚め自立する女性」に変わって行く。ムーミントロールはそのふたりの思想を受け継ぎ、さらにそこに「自分の世界」を積み重ねていく・・ 
物語というと時代が固定されたものも多いのですが、ムーミンシリーズでは時の流れがあり、「進化していく」構成となっています。それでいてそれぞれの物語は独立していて、さらにはムーミン一家が全く登場しない「裏」に相当する作品(ムーミン谷の11月)があるなど、非常に深い物語です。

だからこそ、ムーミンに関する資料集や、辞典、あるいはトーベヤンソンとそれを取り巻く環境の本などたくさんの参考書が世に出ているのではないかと思う訳です。これらを理解するにはテレビシリーズだけではとうてい不可能だと思いますが、本編については、一度全部読んでみると全体像が理解できるのではないかと思います。

ところで、ムーミン物語の中には一人の技術者が登場します。彼の名は「フレドリクソン」と言います。フレドリクソンは、スニフのおとうさんのおじという設定ですが、このフレドリクソンの系列は機械関係が好きなようで、スニフのおとうさん「ロッドユール」が持っていた歯車から、船(潜水艦になったり、空を飛行する)を作ってしまうという、とてつもない人です。フレドリクソンはムーミンパパの親友でもありますが、ロマンチストのムーミンパパに対して、クールなのが特徴でもあります。

ムーミン物語の前期シリーズの中ではこの、「ムーミンパパの思い出」が僕は一番好きです。

まあ、ムーミン物語の読み方などは、解説本などに詳しいので取り上げませんが、先の「それからどうなるの」と「さびしがりやのクニット」は「ムーミンズ」というビデオに納められているので、これから取りかかるのもいいかも知れません。

ビデオの案内

「トーベヤンソンのムーミンズ」 ヤマハビデオライブラリ GOS392530 カラー34min 日本語/スウェーデン語

「それからどうなるの」「さびしがりやのクニット」を収録。”ほんとうのムーミンがいるよ”のキャッチフレーズに違わず、「それからどうなるの」ではトーベ-ヤンソン本人と岸田今日子の語りという本格派。